ナイキ本社で開催された国際コーチングサミット「COACH THE DREAM Envisioning the Future of Youth Sport Coaching」で日本人参加者が得た学びと気づきとは?

ナイキ本社で開催されたコーチングサミットの参加者集合写真 ©Nike,Inc.
ナイキ本社で開催されたコーチングサミットの参加者集合写真 ©Nike,Inc.

5月下旬、米オレゴン州に位置するナイキ本社でサミット「COACH THE DREAM Envisioning the Future of Youth Sport Coaching (参考和訳:コーチ・ザ・ドリーム〜子どものためのスポーツコーチングの将来を思い描く〜)」が開催され、「プレー・アカデミー with 大坂なおみ」を代表して、ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団シニアプログラムマネージャーの篠原果歩、「スポーツ現場におけるジェンダー平等を目指す指導者のためのネットワーキングプログラム(通称:ジェンダー&スポーツコーチングプログラム)」で連携する 一般社団法人S.C.P.Japan代表理事の井上由惟子さんが参加した。この記事では、サミットから数週間後にオンラインで開催された「ジェンダー&スポーツコーチングプログラム第6回ネットワーキング会」での、篠原と井上さんの報告内容を参考している。

オンライン報告会の冒頭、篠原から「ジェンダー&スポーツコーチングプログラム」について、説明をした。

「ジェンダー&スポーツコーチングプログラムは、女の子をはじめ子どもたちが安心・安全にスポーツに参加できる環境を整えるため、指導者やリーダーをつなぐという活動を2023年3月から実施してきました。今回のサミットの共有により、未来のコーチングについて考え、コーチングの質を高めるために必要なアクションを考える機会にできればと考えています」

「Coach the Dream」ワークショップにプレー・アカデミーを代表して参加する篠原と井上さん ©Nike,Inc.

井上さんは普段から子どもに関わるコーチングやコーチファシリテーターなどを行っており、「サミットに参加した2日間は刺激的で、コーチングの概念が変わるほどだったので、ぜひ共有したいと思います」と、意気込みを語った。

ナイキの掲げるユースコーチングの革命「COACH THE DREAM」とは

「ユーススポーツの未来はコーチングから始まる」とナイキは信じている。ナイキは、社会と子どもの未来のために、すべての子どもたちが身体を動かし自身の可能性を最大限に引き出す為の取り組みとして、ユースコーチングにおける変革をリードしている。その取り組みが、「COACH THE DREAM」。

すべての子どもたちは優れたコーチを必要とし、子どもたちはコーチの支援により、自身の最大限の可能性を発揮でき、そしてスポーツを生涯に渡って好きでいることが可能となる。しかし、世界全体では5人に1人の子どもしか必要な運動をしていない。30年以上にわたり、ナイキは世界中のコミュニティ団体、専門家、アスリート、従業員と協力し、質の高いコーチングに重点を置きながら、すべての子どもたちのためのアクセス、経験、コミュニティの向上というユーススポーツの未来に力を注いできた。

「COACH THE DREAM」を通して、子どもたちがフィールドの内外で夢を実現できるよう、よりインクルーシブなコーチングを提供し、すべてのアスリートにインスピレーションと革新をもたらし続けていく。

このサミットには、ナイキから招待を受けた、スポーツを通じて子どもたちの成長をサポートする団体やコーチ、アスリートなど約40名が世界中から集い、次世代のコーチを迎えるために必要なことについて、2日間にわたりパネルトークやグループワークを実施した。

そこでのテーマは「ユーススポーツ指導は今後どうあるべきなのか、すべての子どもたち、特に女の子がスポーツに居場所を感じられるようにするために、コーチにはどのようなスキルが必要なのか?」「新しい世代のコーチ、特に女性コーチをどのように後押しできるのか、これらのビジョンを実現するためには、何を変える必要があるのか?」など多岐にわたり、活発に議論が飛び交った。

サミット1日目:オープニングトークで語られた「BEST OF YOURSELF」

サミットの1日目は、ナイキ本社ツアーを経て、オープニングトークからスタートした。登壇したのは、ナイキのチーフ・インパクト・オフィサーでVPのヴァネッサ・ガルシア・ブリトーと、元カナダ代表ゴールキーパーとして活躍していた元プロサッカー選手で現在ポートランド・ソーンズFCのジェネラル・マネージャーであるカリーナ・レブランクさん。

「ナイキはスポーツの経験に関わらず、誰もがアスリートであると考えていること。同時に、スポーツのコーチとは関係なく、大人は子どもがより良い人生を歩むためのサポートができるのだから、誰もがコーチであり、コーチになれるという話がありました。ヴァネッサさんは、自分の人生において最初に出会ったコーチは母親であり、自分の人生に良い影響を与えてくれたと話していたのが印象的でした」と井上さん。

オープニングトークでは「BEST OF YOURSELF」という言葉がたびたび使われた。これは「私らしい状態が最高と思わせてあげられる存在がコーチであり、その感覚を子どもに積み重ねてあげることが重要」という意味が込められている。

「BEST OF YOURSELF」を実現するために必要なことは、まずは子どもたちの声や意見を聞くことだ。信頼関係を築くためには話すよりも聞くことが大事であり、子どもに自分の声が大切だと気づいてもらうための日々の関わりが重要という示唆があった。

サミット2日目:パネルディスカッションとワークショップ

サミットの2日目は、前半にパネルディスカッションが行われ、アメリカ代表として4度オリンピックで金メダルに輝き、米WNBAでプロバスケットボール選手として活躍したシルビア・ファウルズさんやアメリカやヨーロッパで活躍するコーチなど複数名が登壇した。やアメリカやヨーロッパで活躍するコーチなど複数名が登壇した。やアメリカやヨーロッパで活躍するコーチなど複数名が登壇した。

パネラーに対して投げかけられた1つめのテーマは「今、コーチに対して緊急に必要なことは?」。そこではさまざまな回答があった。

「コーチは子どもを成長させたい、高くジャンプさせたいと考えるが、そのためには土台が必要です。土台は心が満たされていて、安心できる状態にあることであり、まずはそこをつくる役割がコーチにとって大切。“Heal before fly”、高く飛ぶ前にヒーリングを意識すること」

「今はコーチにいろいろなことを求めすぎる。多様なニーズをもった子どもがいるなかで、コーチはやるべきこともプレッシャーも凄い。コーチはたくさんの時間を費やしていることを認識して感謝すべきであり、緊急に必要なことは“コーチに対してまわりは何ができるかを考えること”です」

2つめのテーマは、アメリカの団体「The Center for Healing and Justice through Sport(CHJS)」の取り組みについて。

CHJSが制作するコーチング教材「NOTHING HEALS LIKE SPORT」は脳科学に基づき、スポーツがいかに人を癒してくれるかを解説した内容であり、それを理解したうえでスポーツをどう活用していくかということがCHJS創始者のメーガン・バートレットさんによって語られた。コーチや仲間との“良い関係性”の構築。子どもの声を聞き、子どもが主体的に関われる “自律性”のある設計。そして自分のスキルが発揮されている“有能感”と、3つのキーワードが提示された。

最後の3つめのテーマは、「コーチの仕事とは?」。

「本来は子どもとの関係性をつくる仕事なのに、コーチはスポーツしか学んでいないことがある。スポーツではなく人生をコーチするのだから、そこをもっと学ぶべきという話がありました。また、スポーツをする場を提供するだけではなく、設計が(目的達成のために)意図的であり、一貫性をもった(子どもや保護者との)関わりが大事という議論もありました」と井上さん。

ナイキ本社で40名以上の指導者が集まり「ユーススポーツの未来」について議論した。©Nike,Inc.

オンライン報告会でもワークショップを実施

サミットではパネルディスカッションの後に未来のコーチングを考えるワークショップが実施され、オンラインイベントの後半でもサミットと同じワークショップを実施した。

テーマは「子どもや若者にとって質の高いスポーツ体験に必要な要素は?」。正解はなく、参加者が自由に考えを出していった。

「心理的安全性」「楽しい」「信頼関係」の3つが多数の声としてあがり、他にも、意欲、モチベーション、チャレンジできる、目標を達成する、新しい気づきなど、さまざまな声が出てきた。

「サミットでも共通した要素が出てきました。この要素のある環境が未来のスポーツであってほしい姿と位置付けます」と井上さん。

続けて、「女の子のスポーツ経験にとって重要な要素は?」というテーマでは、「ロールモデル」「女性特有の変化に対する理解やサポート」などに多くの声があがり、他にも、自信を得られる、ジェンダーステレオタイプからの解放などがあがった。

井上さんからは、「もうこの場がサミットですね。サミットでは出てきたなかから“良い関係性”“帰属意識”“自律性”の3つに絞りました。さらに、これらをスポーツ活動の中で保証するためにコーチにはどのようなスキルがあればよいかをディスカッションしました」とサミットでのワークショップのプロセスを共有した。

参加者からは、

「自律性が大事だと思っています。日本ではコーチがプランを考えて、子どもや選手に落とし込んでいく構造になりがちですが、そうすると対等な関係性をつくりづらく、信頼関係の構築にも影響します。私は練習メニューの中に子どもたちが選べる枠をつくっています。つまらなそうにやっていたのが、急に顔が輝くことがあります」

「中学生向けのスポーツ教室でコミュニケーションコーチの職で帯同しています。良い関係性づくりからチームづくりをしていく仕事です。アイスブレイクとしてお互いの名前を覚えてコーチとの関係性をつくってから、アクティビティに取り組むなかでいかに自律性を生み、自分たちで課題解決する能力をみにつけるかに取り組んでいます」

など、さまざまな意見があがった。

人間性のコーチングは誰でもできる可能性がある

サミットの最後には、全員でこれまでに出てきた意見が「未来のコーチング、未来の理想のスポーツの姿」としてグラフィックレコーディングにまとめられたものが振り返りとして共有され、2日間にわたり行われたプログラムは終了した。グラフィックレコーディングにある山、土台の部分である「私達がその実現のためにできることは何か、具体的なアクション」とし、保護者や学生がコーチとして参加できる仕組みを形成していく、TVドラマやエンターテインメントを活用するなど革新的な方法でコーチングの価値観を改革していく、そしてグローバルおよびローカルレベルでの政策・方針のシフトから社会の仕組みを変えていくなどが挙げられた。

篠原は、サミットに参加した感想を次のように話した。

「アメリカだから状況が違うということは全くなくて、アメリカでも指導者が足りないことは課題になっています。一番の課題として出てきました。私はスポーツが(プレーヤーとして)全くできませんが、サミットに参加して私も“人間性のコーチング”はできるかもしれないと感じました。そういう議論も日本でしていかないと、スポーツができる人しかコーチになれないと思ってしまいます」

具体的なコーチを増やす施策のポイントとなるのが、保護者の参加である。

Nike coaches' Summit graphic (JPN)
「未来のコーチング、未来の理想のスポーツの姿」のグラフィックレコーディング © Nike,Inc.

「年間シーズンの目標を考えるときに保護者も入れることは重要という話がありました。当事者意識をもってもらうために目標設定から入ってもらわないと自分事にしづらい部分がある。日本だと保護者が参加するのは面倒という思いが強いかもしれないが巻き込む環境づくりが重要だと実感しました」

井上さんは「1人ひとりが自分のストーリーを語ることが印象的でした。コーチングにおける価値観や信念は自分の人生から来ているものだから、そこを凄く尊重しているんですね。日本の指導者講習にはあまりない部分と感じました」と振り返る。

「COACH THE DREAM Envisioning the Future of Youth Sport Coaching」でたびたび出てきた言葉である「BEST OF YOURSELF」。遊びやスポーツを通じて女の子の人生に変革をもたらすためには、「私らしい状態こそが最高」と思わせてくれる“未来のコーチ”の存在がより一層重要になるだろう。「プレー・アカデミー with 大坂なおみ」は、その実現のために、パートナーであるナイキとローレウスを中心に協力しながら、これからも日本の女の子のためにスポーツに変革を起こす活動を進めていく。

文: Play Academy PR Task Force