2024年に首都圏で追加された支援プログラム3つを紹介

Girls playing sport in Japan bow to each other
ミニゲーム前の礼の様子 ©Play Academy with Naomi Osaka / Mazken

スポーツを通じたジェンダー平等の推進と、女性・女の子の権利向上は、挑戦なくして成し遂げることはできない。最近の子どもたちの身体活動量は過去最低値で、世界保健機関によると「5人に1人しか必要な運動ができていない」と言われている。日本では、6歳から 15歳までの女の子がスポーツに参加する割合は男の子に比べ20%少なく、スポーツをする場所やニーズに合った運動経験が得られにくいこと などが原因で、15歳までにスポーツをやめてしまう確率は女の子の方が2倍近く高くなっている。

こうした課題に取り組むために、 2020年夏に開始した「プレー・アカデミー with 大坂なおみ」の日本国内での活動。 2024年には首都圏で新たに、一般社団法人ジャンク野球団、NPO法人Jキャンプ、一般社団法人東京スポーツクロスラボの3つのプログラムが助成受給団体として追加された。今回の記事では各プログラムの概要を紹介する。

ベースボール5に取り組む「一般社団法人ジャンク野球団」

Girl playing baseball 5 activity
一般社団法人ジャンク野球団はベースボール5を通して地域の課題解決に取り組んでいる。 ©Play Academy with Naomi Osaka / Mazken

ベースボール5を通じた女の子の支援に取り組む一般社団法人ジャンク野球団は、「野球を通じて人生を豊かにする」というミッションのもとに活動している。技術の向上やスポーツに携わる機会の提供に加え、コミュニケーション能力の育成など、社会的意義のある活動と環境を提供する。

「ベースボール5」とは、2017年に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)より野球・ソフトボール振興の一環として発表されたスポーツ。基本的なルールは野球・ソフトボールと同じだが、試合は1チーム5人制(公式国際大会では男女混合)で行われる点が大きな特徴だ。ゴムボール1つさえあればどこでも楽しむことができる手軽さから世界70カ国以上でプレーされており、2026年に開催されるダカールユースオリンピックの公式種目に追加された。初の男女混合競技として注目を集めている。

ジャンク野球団のベースボール5部門では、ボール運動教室「ジャンク・アカデミー」を月1回程度開催し、男女混合でプレーされるベースボール5の特性を生かし町田市周辺地域のジェンダー不平等の是正と、女の子の健康とウェルビーイングの推進を図っている。

代表理事を務める若松健太さんは、「東京都町田市は、女子のスポーツへの参加率が男子に比べて約26.5%低いということがわかっています。そこで私達は、小学生高学年から中学生を対象とした定期的なベースボール5教室とゲストスピーカーによるワークショップを実施しています」と話す。

参加者がチームスポーツにおけるリーダーとなる機会を設け、リーダーシップ力やコミュニケーション能力の向上を図るとともに、ワークショップを通じて女性の健康教育や社会で活躍する女性ゲストスピーカーの話を通じて知識を深めていく。

「私や他メンバーは、過去にベースボール5日本代表コーチおよび選手として選出された経験があります。ベースボール5を熟知した私達メンバーを含む研修を受けたコーチ陣によってプログラムが提供されるところが特徴です」と若松代表理事。

学生スタッフである松浦愛恵さんは、「小学生のときに少年野球チームに入り、そこでは女子が私1人と他は全員男子という空間でした。6年生の時に神奈川県女子選抜にも選ばれましたが、中学からは女子ができる環境がなくて野球は断念。大学で男女混合のベースボール5に出会い、今は楽しくプレーできて嬉しいです。男女が一緒なので、その能力の差で試合に出られないということがないことが私の中では魅力的ですね」と語ってくれた。

プログラムの詳細は、ジャンク野球団のホームページをご覧ください。
https://www.junk-bbc.com/

車いすバスケットボールに取り組む「NPO法人Jキャンプ」

Girl in wheelchair shoots a basketball
NPO法人Jキャンプは車いすバスケットボールキャンプを開催している。 © J Camp

「車いすバスケットボールの真の楽しさを伝え、人間の可能性を追求する」を理念に掲げるNPO法人Jキャンプは、車いすバスケットボールキャンプを中心とした事業を行うことにより、自分の可能性を夢見て、障害が選択肢を狭めることのない、自己選択と自己決定ができる社会環境づくりを目指している。

事業内容は、車いすバスケットボールキャンプ「Jキャンプ」の開催や、海外研修事業、情報提供事業(海外情報を中心とした車いすバスケ関係情報の収集と提供)、人材育成事業(コーチングクリニックへの人材派遣や勉強会の開催)など、幅広く活動を行っている。

代表理事を務める及川晋平さんは、「Jキャンプは、プレー・アカデミーの支援対象となる新事業『Push for Future』で、障害がある若い年代の女性たちが自分のバウンダリーを『Push』しながら力強く未来に進んでいってもらえるよう『リーダーシッププログラム』と『車いすバスケで Play Date』の2つのプログラムを提供しています」と説明する。

「リーダーシッププログラム」では障害がある若い年代の女性たちが、自信を持ってリーダーシップを発揮していくことを手助けできるよう、オンラインワークショップを通して「リーダーシップ」「ジェンダーとスポ―ツ」「女性とスポーツ」といったトピックについて学び、仲間と共に考えサポートしあえる機会を提供する。「車いすバスケで Play Date」では障害がある女の子たちが女の子だけの空間でスポーツ用車いすに乗って身体を動かすことや遊びを楽しむ経験の場をつくっている。

「Push for Future に関わる人々が日々もうワンプッシュしていくことで、誰もがスポーツを楽しめる社会、多様でインクルーシブなコミュニティ構築への貢献につなげてもらえるようなプロジェクトを目指しています」と、及川代表理事は意気込みを語った。

「Push for Future」の詳細はJキャンプのホームページをご参照ください。
https://jcamp.jp/

渋谷区や港区の中学校でライフスキルや性と生殖に関する健康と権利の推進に取り組む一般社団法人東京スポーツクロスラボ

Girls putting their hands in the middle

一般社団法人東京スポーツクロスラボは女子中学生がスポーツを楽しみながら社会で必要とされるライフスキルを身につけることを目指す。©一般社団法人東京スポーツクロスラボ

「Girls Life Skills ×SRHR※ in sports project」は、12 歳から16歳の女子中学生が自分の身体と向き合い、スポーツ・運動を楽しみながらライフスキルを獲得し自己肯定感が高まることを目指し、それを継続的に参加できるよう支援するプロジェクト。

スポーツを通じて、自尊心を高め、コミュニケーション能力やリーダーシップを磨き、仲間との絆を深め、協調性を養い、目標に向かって乗り越える力を養うことで、日常生活の質を向上させ、社会で必要とされる生きる力を身につけることを目指す。

「プレー・アカデミーwith 大坂なおみ」の支援を受けて、「Girls Life Skills ×SRHR in sports project」 を立ち上げた東京スポーツクロスラボは、「世の中の人やモノ、コトをスポーツでつなぎ、スポーツで広めていくことで、みんなが健康で幸せになれる環境づくりに貢献する」をビジョンに掲げ、2017 年から活動を開始した一般社団法人。

小中高校生の誰もが楽しくスポーツや部活に参加できる社会を目指し、特に10代の女の子がスポーツや部活動に楽しく参加し、それを継続的、永続的に続けることができるようサポートを行っている。

代表理事の寺井由美さんは、「80%の10代女子は運動やスポーツをすることが好きだと感じているのにも関わらず、中学以降になると急激にスポーツ実施率が減少しているというスポーツ庁の調査結果に着目しています」と、課題を強く実感している。

この女子特有の問題となっている背景として、学校での体育や部活の指導が男性から行われることが多い点、学校教育におけるジェンダー形成の問題、思春期による身体の変化と向き合う難しさなど、多くの要素があると考察。心と身体が大きく変化する 10 代の時期に、スポーツを通して、その課題に向き合い、学ぶ環境が必要と考え、「Girls Life Skills ×SRHR in sports project」 を立ち上げている。

「女の子たちが、スポーツを楽しみ継続的に参加できる環境をつくりながら、彼女たちが自尊心を高め、コミュニケーション能力やリーダーシップを磨き、仲間との絆を深め、協調性を養い、目標に向かって乗り越える力を養うことで、日常生活の質を向上させ、社会で必要とされる生きる力を身につけることを目指します」と、寺井代表理事はポジティブな未来を語った。

※SRHR (Sexual and Reproductive Health and Rights):
「性と生殖に関する健康と権利」と訳され、すべての人が性と生殖に関する適切な知識と自己決定権を持ち、自分の意志と選択によって自らの尊厳と健康が守られること。

プログラムの詳細は東京スポーツクロスラボのホームページをご覧ください。tokyosportscrosslab.com/

プレー・アカデミーは、この3つのプログラムを2024年に迎え、計7つのプログラムを通じて首都圏の女の子へのスポーツを通じた支援を加速させています。