イベントレポート:プレー・アカデミー設立5年目を祝して「女の子のためにスポーツを変えるウィーク -COACH THE DREAM-」開催

Naomi Osaka partners with a girl for an activity
大坂なおみ選手とスポーツや遊びを通じて交流する首都圏の女の子たちの様子

「プレー・アカデミー with 大坂なおみ(以下、プレー・アカデミー)」パートナーであるナイキとローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団(以下「ローレウス」)は、2024年10月16日〜20日に「女の子のためにスポーツを変えるウィーク – COACH THE DREAM – 」を東京で開催。本企画では、女の子とスポーツを取り巻く課題とそれらに対するアプローチを話し解決策を提示することを目的としている。5日間にわたる本イベントには、現在スポーツ界で活躍するアスリートである大坂なおみ選手らが参加し、ユニークなスポーツ体験を届けた。また、国内外の専門家やアスリートたちを招いて女の子がスポーツ参加に関して直面する障壁への理解を促進するためのディスカッションを実施し、日本中の女の子の変革をもたらすための行動を起こした。

イベントには大坂なおみ選手やローレウスアカデミーメンバーであるミッシー・フランクリン・ジョンソン氏をはじめ、国内外から課題に関心ある企業、行政、メディア、競技団体、NPO・NGO、アスリート、プレー・アカデミーパートナー団体等、約400人が参加した。またこのイベントで、「女の子のスポーツ参加を促す指導者ガイド」が発表された

Day 1:10月16日(水)マスターコーチ研修

マスターコーチ(スポーツ指導者の講師)となる人材育成のための研修を実施し、日本だけではなく、韓国、フィリピン、インドネシアから合計15名が、「メンタルヘルスやトラウマへ配慮したスポーツコーチング」についての最終研修を受けた。本研修の講師をCenter for Healing and Justice through Sport(CHJS)が務め、今年9月より5回にわたり、オンラインで研修が実施されてきた。最終回では講座に加え、参加者同士で交流をしながら、意見交換や身体を動かすアクティビティを通した研修を実施した。

Day 2:10月17日(木)ウェルカムディナー

「女の子のためにスポーツを変えるウィーク – COACH THE DREAM -」を盛り上げるべく、国内外からの参加者約50名が参加したウェルカムディナーを開催した。当日は、ナイキジャパン VP兼ゼネラルマネージャー小林哲二氏より 、参加者への歓迎の挨拶を行った。また、米国代表の競泳選手としてオリンピックで5つの金メダルと1つの銅メダルを獲得したローレウスアカデミーメンバーのミッシー・フランクリン・ジョンソン氏と、ローレウスアンバサダーで日本を代表する陸上選手として活躍してきた為末大氏がゲストとして参加し、挨拶を行った。参加者は食事を楽しみながら、自身のスポーツを通しての経験や、女の子のスポーツ参加についての課題などについて話し、交流した。

Day 3: 10月18日(金)東京サミット

10月18日(金)には、本企画のハイライトである東京サミットを開催した。午前の部では、プレー・アカデミー参加者で、スポーツを楽しんでいる女の子2名より「私にとってのスポーツ」をテーマにしたスピーチを行った。スポーツをして苦しい経験をした際にチームメイトや先生に助けてもらったことや、スポーツが人とつながるきっかけをくれていることなど、実際のエピソードを交えながら、スポーツの楽しさと課題を訴えた。

Girl speaks on stage
2人目は女子中学生の中山杏珠さん。障害者クライミングの普及活動に取り組むNPO法人モンキーマジックのプログラムに参加している。©Mazken/For Play Academy

桃山学院教育大学 4年生 世古汐音さん:

「小学校4年生から現在までバレーを続け、たくさんの壁が立ちはだかっていました。指導者とうまくいかないなど、競技は好きなのにプレー以外の悩みが原因で離れてしまったこともあります。続けられたのはチームメイトや先生からの助けがあったからです。女の子には絶対に1人で抱えこまないでほしい。私は中学時代の体育の先生との出会いがきっかけで体育教員になることを目指しています。憧れた先生に自分の可能性を広げてもらい、教師という素晴らしい夢を与えてもらったので、私も生徒に影響力のある先生になりたいです」

NPO法人モンキーマジック 中山杏珠さん:

「私にとってスポーツは人とつながるきっかけであり、自分の世界を変えてくれたものです。1歳の時に目の病気が見つかり、10歳の時に完全に見えなくなりました。 弱視の時は危ないということで思いきり体を動かせる環境が少なかったのですが、見えなくなったことで状況が変わり、出会えたスポーツが2つあります。クライミングと柔道です。クライミングは 自分自身と戦うことを見出してくれたスポーツであり、柔道は自分と相手と向き合うスポーツだと感じました。私はこの2つのスポーツに出会えたことで、自信がついて、諦めないで前向きにチャレンジすることができるようになりました」

世古さんと中山さんからは、スポーツをはじめる、または続ける上で対峙した障壁とともに、それを乗り越えたことで得たポジティブな体験や感覚を共有してくれた。

Five speaker on stage speaking on a panel
左よりローレウス篠原果歩氏、田中美羽選手、世古汐音さん、恩塚亨氏、來田享子教授にてパネルディスカッションが行なわれ、ワードクラウドにて会場から共感をしたことなどリアルなリアクションを集めた。©Mazken/For Play Academy

その後、「障壁を知る『私たちは何を考えるかー女の子の声を聞いてみて』」というテーマでパネルディスカッション①を行なった。現役アスリートである田中美羽選手(野球・読売ジャイアンツ)、桃山学院教育大学の世古汐音さん、女子バスケットボールの指導者として活躍する恩塚亨氏(前バスケットボール女子日本代表ヘッドコーチ)、スポーツとジェンダー領域の専門家として大学で教鞭をとる來田享子教授(中京大学)を交え、女の子のスポーツを取り巻く課題やその解決方法について体験談を交えながらディスカッションを実施した。

恩塚氏

「私がコーチをしているうえで一番大事にしているのは『ワクワクが最強』ということ。スポーツには身体を動かす、素晴らしい仲間と時間を共有するなどのワクワクがあり、その状態にどうしたら導けるかを考えています。人ががんばりたくなるのはワクワクする目標があるからです。やり方がわかって自信が出れば、勝手にがんばりたくなる。コーチががんばらせるのではなく、選手ががんばりたくなる状況をいかに整えられるかにチャレンジしていきたい」

來田教授

「女の子のスポーツ参加を阻む『5つの障壁』があります。女の子はこうあるべきという『ジェンダー規範』、失敗したときにひどい言葉を投げられる『人権尊重・保護』の問題、憧れの存在である『ロールモデル』の少なさ、やりたいと思ったときに『スポーツがそこにある』こと、そして男性とは異なる『女性特有の身体の変化』です」

この状況に対して私達が明日から何ができるのか――來田教授は次のように提案した。

「まずは女の子の『好き』や『大事』を理解することです。強制されてやるスポーツはスポーツではありません。女の子もみんな一緒ではなく、一人ひとり違う。このウィークがそれを考えるきっかけになるといいと思います」

Three women on stage speaking on a panel
左よりナイキVP兼チーフインパクトオフィサーのヴァネッサ・ガルシア・ブリトー氏 、ローレウスアカデミーメンバーで5度のオリンピック競泳メダリストであるミッシー・フランクリン・ジョンソン氏、CHJSメーガン・バートレット氏の3名でディスカッションが行われた。©Mazken/For Play Academy

続くパネルディスカッション②では、「障壁へのアクション 『自分らしくスポーツができる未来へ』」をテーマに、世界的に活躍してきたアスリートであり、ローレウスアカデミーメンバーであるミッシー・フランクリン・ジョンソン氏、子ども・若者育成のためにスポーツを活用する団体を支援してきたCHJSの創設者であるメーガン・バートレット氏、ナイキ VP兼チーフインパクトオフィサーのヴァネッサ・ガルシア・ブリトー氏の3名が登壇し、意見交換を行なった。

「女の子のためにスポーツを変えるには、指導者やコーチの存在はとても重要です。良いコーチは試合の流れを変えることができますが、素晴らしいコーチは⼈⽣を変えることができるといわれています。特に、⼥の⼦たちは、自分たちと共通点があったり、自分たちがそこにいていいんだという所属意識をはぐくむ環境を作ったり、⾃分のロールモデルとなるようなコーチを必要としています」

ナイキ ヴァネッサ・ガルシア・ブリトー氏

「重要なことは完璧さではなく、勇気であることを女の子たちが体感できる環境を、コーチが作ることが大切だと思います。環境が整えば、女の子たちは完璧を目指すのではなく、新しい挑戦をしながら、学び、成長できます。そのような環境づくりができるよう、コーチを育て、ツールを提供することが重要です」

メーガン・バートレット氏

など女の子たちが自分らしくスポーツを楽しむための示唆に富んだ内容だった。

午後の部では、国内外から集まったプレー・アカデミーやナイキのパートナーが、スポーツを通じた女の子のエンパワーメントの先駆的な地域での取り組みを紹介した。国内からは、指導者向けの研修やネットワーキングを行う一般社団法人S.C.P.Japan、首都圏の障害のある女の子にクライミング教室を提供するNPO法人モンキーマジック、大阪府の女子部活動支援を行う桃山学院教育大学、ハイチからはサッカープログラムを提供するGOALSハイチ、アメリカ・ロサンゼルスからはレスリングプログラムを提供するBeat the Streetsロサンゼルス、ナイキパートナーから、中国の学校スポーツ支援をしている北京ウェスタン・サンシャイン・ファンデーションより事例の発表があった。

また、当日は本イベントのために制作された動画の発表も行い、「女の子のためにスポーツを変える」べく、SNSでの動画拡散を呼び掛ける合同アクションを実施。会場内外で大きな反響があり、SNSでは動画 が50 万回以上再生されている(11月14日時点)。

さらに、スポーツ現場におけるジェンダー平等推進のための工夫やヒントをまとめた「女の子のスポーツ参加を促す指導者ガイド 」も発表した。

Day 4: 10月19日(土)ガールズセッション

4日目には、ガールズセッションを実施した。セッションはプレー・アカデミーが首都圏・大阪・ロサンゼルス・ハイチで支援するプログラムリーダーやコーチたちと9歳から15歳までの女の子35名が参加し、運動遊びやピックルボールを行なった。大坂なおみ選手やミッシー・フランクリン・ジョンソン氏らのゲストアスリートと一緒に身体を動かしながら、スポーツの楽しさを実感した。さらに、女の子からの質問に対し、ゲストアスリートは体験談を交えながらメッセージを送った。

「今回感じたことは、楽しむことの大切さ。これからも楽しみながら、笑顔を絶やさずに続けてほしい」

ミッシー・フランクリン・ジョンソン氏

「同じく楽しむことが大事だと感じた。みなさんとても若くて、エネルギーが溢れていて、素晴らしい。今後もいろいろなことに挑戦して、楽しんで、笑顔でいてくれたらうれしい」

大坂なおみ選手

参加した女の子たちからは

「めちゃくちゃたのしかった!ともだちが作れた!!大坂なおみ選手に会えてドキドキした!!」

「見えなくてもスポーツは楽しいし、いろいろチャレンジしたいと思う

といった声が寄せられた。

当日のセッションは、ヨネックスを始めとする大坂なおみ選手のスポンサー企業や団体が集結し実施された。

Day 5:10月20日(日)COACH THE DREAM指導者研修

最終日には、「メンタルヘルスやトラウマへ配慮したコーチング」をテーマにした研修会を実施。CHJSからトレーニングを受けた日本人マスターコーチが講師を務め、全国のスポーツクラブや競技団体、学校の部活動などの指導者、コーチら約50人は子どもやアスリートに居心地の良いスポーツ環境を届けるための半日研修を受けた。研修のポイントは、「脳とトラウマを理解する」「ポジティブな関係を築く」の2つ。脳科学を用いて、スポーツをする子どもたちが心地よいと思える適切なサポートや子どもたちとのポジティブな人間関係の構築方法などを、実践形式で学びながら体得していった。

5日間にわたる「女の子のためにスポーツを変えるウィーク – COACH THE DREAM – 」は、多くの学びと笑顔のもとに終了した。このイベントの共同責任者であるナイキ・ソーシャル・インパクト・シニア・ディレクター・アジアパシフィックの森本美紀氏とローレウス篠原氏はイベントを振り返り、次のように総括する。

「体を動かすことは心身の健康に大きなメリットを与えてくれますが、このメリットを現代の子どもたちは十分に受けられていません。女の子は特にそうです。この大きな課題は、社会としてたくさんの人と取り組む必要があると感じ、皆さんをこの場にお呼びしました。ぜひ皆さん、今回発表される内容に耳を傾けていただき、自分事としてアクションにつなげていただければと思います」

ナイキ森本

「何でワクワクするかは人それぞれ違うと思いますが、指導者やコーチ、スポーツをつくる人たちがそれをしっかりとつくり出して、みんなのワクワクが持続できるように対話を続けることが重要だと感じました。今回のイベントを通して女の子のスポーツ離れが加速しているヒントを見つけてもらい、それを一緒に女の子たちのためにアクションへと動かしていきたいと思います」

ローレウス篠原

プレー・アカデミーは、ナイキやローレウス、地域コミュニティ団体などさまざまなステークホルダーと引き続き連携し、「女の子のためにスポーツを変える」アクションに取り組んでいく。

文: Play Academy