2024年の年末、スポーツ指導者やコーチたちが都内のクライミングジムに集まった。参加者に共通する点は、「女の子にとって安心・安全なスポーツ機会を提供したい」という思いだ。
そこでは、プレー・アカデミー with 大坂なおみの「スポーツ現場におけるジェンダー平等を目指す指導者のためのネットワーキングプログラム」の一環として、昨年10月に発表した「女の子のスポーツ参加を促す指導者ガイド」を活用しながら、スポーツ現場で実践できるジェンダーに配慮するための工夫を組み込んだクライミング交流会が開催された。
プログラム参加前の不安な気持ちを取り除く
子どもたちの安心・安全な環境づくりは、プログラムの開始前から始まる。
今回のイベントを担当した一般社団法人S.C.P. Japanの繁浪由希さんは、「スポーツの前の『嫌だな』と思う気持ちを除く」ことが大切だと話す。
「初めての場所に行くときはドキドキしたり、アクセス面で不安を感じたり困ったりすることがある。会場下見を通じて、私たちが事前に情報を持っていることで安心できる参加者もいる。また、更衣室などの既存の会場設備の中で工夫できることを事前に考え、準備することが大切」
実際に、今回のイベントでは更衣室の中にカーテンを設置し、個人のスペースが守られた個別の空間がつくられた。これは、既存の設備の中で、男女の更衣室のみでなく、誰でも使える更衣室を用意するための工夫だ。

自分の声が反映される経験をーその場にいる人たちと一緒に空間をつくる
クライミング中にもユニークな仕掛けが数々見られた。まずは、スポーツ場面でよく見られる「グループ分け」だ。
繁浪さんは「初めての人が集まる時には、グループをつくることにも緊張してしまう。特に、男の子が中心の中でスポーツをする女の子にとって、そのハードルは高く、嫌な印象を持たれやすい」と話す。今回のイベントでも、背中に貼られた名札をみて五十音順に列をつくるといったゲームの延長戦上の中でグループ分けが行われた。
また、ゲームの間には「チームでの目標点数の設定は?」や「追加したいルールはあるか?」などの問いが投げかけられ、『応援を頑張っているチームに加点』といった特別ルールが追加された。参加者と考えながら安心・安全な空間を一緒につくることがここでは欠かせない。その重要性について繁浪さんは以下のように話す。
「その場にいる人の声を聞くことで、参加者というよりはその場をつくる一員という気持ちを持ってもらいたい。子どもたちも自分の声が反映される経験を得たり、いろんな人の声を聞くことで他の場所でも対話が生まれるきっかけにもなる。ファシリテーターである自分にとっても、いろいろなアイデアを取り入れて新しいものを生み出すことにわくわく感を持てている」

そして、もう一つの特色のある点に、「相手との競争」よりも「チームの目標達成」に重点が置かれていたことがある。今回のプログラムへ協力したNPO法人モンキーマジックの白井唯さんは、普段の活動でも、目標設定から達成までのプロセスを経験してもらうことを大切にしている。
「他者との競争は一時的なモチベーションになるが、常に誰かと比べてしまい、自分自身の価値に気づけず、自己効力感には繋がりづらい。個人の目標を設定し、その目標を達成するまでの成功体験や工夫を経験することが自分の成長を実感しやすく、自己効力感を育てやすい環境になる」
最後に繁浪さんは「いろんな教科書があっても、その目の前にいる子どもは教科書には載っていない考えを持っているかもしれない。目の前にいる子どもに向き合って同じ目線で話をしながら、子どもたちが手放しで楽しめるように、私たち大人は葛藤しながら活動していきたい」と、力強く語った。
本イベントで活用したポイントや工夫点をまとめた「女の子のスポーツ参加を促す指導者ガイド」はこちらからご覧ください。