NPO法人Jキャンプがつくる女の子の可能性を広げるスポーツ空間 

柔らかいボールを持って、一生懸命に車いすを漕ぐ参加者の姿
柔らかいボールを持って、一生懸命に車いすを漕ぐ参加者の姿 @Hiroki Nishioka/Play Academy with Naomi Osaka

10月13日は、「スポーツの日」。スポーツを楽しみ、健康な心身を育むことへの願いが込められている。しかし、障害のある女の子たちにとって、スポーツができる場所はまだ限られている。 

NPO法人Jキャンプは、2024年からプレー・アカデミーwith大坂なおみの支援を受け、「Push For Future」プロジェクトを実施している。これは、障害のある女の子や若年層の女性を中心に、彼女たちが車いすスポーツを通じて、自分の未来(Future)に向け、自信を持って一歩を踏み出す(Push)ことを後押しする試みだ。 

女の子が安心して挑戦できる工夫 

既存のバスケットボール用ゴールの下に吊るしたタンバリンにボールが当たる音が体育館に響く。高さの違うゴールを用意し、柔らかいボールを取り入れる工夫は、自分のペースで「できた!」を実感できる仕掛けだ。 

さらにプログラムリーダーは「どっちのボールでやりたい?」「ルールを変えてみようか?」と声をかけ、女の子たちに選択を委ねる。その理由をプロジェクトマネジャーの原田麻紀子氏に尋ねた。 

「障害がある子どもたちは、日常の中で何かを”やってもらう”ことや、”我慢”することが多くなる。私たちは、女の子自身が選び、決め、挑戦するプロセスを大切にしていて、そうした小さな積み重ねが、自己効力感や自信につながると思っています」 

そうした環境の中で、女の子たちは思いがけない変化を見せる。少し難しい課題に自ら挑戦してみたり、新しいルールを提案したり、年下や初めての子に声をかけたりする姿は、大人たちも驚くほどだ。 

Girls in wheelchairs try to steal the ball from another player during a game
参加した女の子たちとコート上でプレーする夢さん @Hiroki Nishioka/Play Academy with Naomi Osaka

体育館から広がる挑戦と成長の循環 

その変化は参加者だけにとどまらない。Jキャンプは「Push for Future」の一環として、障害のある女性を含む若年女性を対象としたリーダーシッププログラムを実施している。安心・安全なスポーツ環境づくりや子どもの障害についてなどのさまざまなテーマの研修を受けた後、参加者は実践の場にプログラムリーダーとして参加する。 

プログラムリーダーの一人、夢さんは、高校時代にJキャンプのスタッフに誘われたことをきっかけに、車いすバスケットボールに出会った。自らも別のチームでプレーを楽しむ一方で、「障害の有無にかかわらず誰もが楽しめる場を増やしたい」との思いから、2024年にJキャンプのリーダーシッププログラムへ参加を決めた。 

「最初は緊張して、子どもたちの前で話すことに不安があった。でも少しずつ女の子や保護者に(自分から)声をかけられるようになり、積極的になったなと思う。少しだけだけど、自信が持てるようになった」 

子どもたちと接する中で大切にしているのは「笑顔を絶やさないこと」と「同じ目線で向き合うこと」。この心がけが安心感を生み、女の子たちが挑戦する勇気につながっている。 

しかし、参加者を支える夢さんのような障害のある女性が、社会の中でリーダーシップを発揮できる機会はまだまだ少ない。だからこそ原田氏は、プログラムの中でリーダーたちが活躍する姿を女の子たちが目の前で見ることで、「自分もできるかもしれない」と思えるきっかけになると説明する。加えて、スポーツを活用することへの思いをこう語る。 

「スポーツでは、自然と他者との交流が生まれたり、楽しさを共有したり、自己選択や自己決定の中で自信を育むことができる。それが普段の生活につながっていって、障害のある人たちが自分の可能性を広げていくことにつながってほしい」 

Participants in wheelchairs form a circle
円になってピースサインを突き上げる女の子とプログラムリーダーたち @Hiroki Nishioka/Play Academy with Naomi Osaka 

Jキャンプの取り組みは、既に循環を生み始めている。参加する女の子の中には、「大きくなったらプログラムリーダーになりたい」と話す参加者や、プログラムリーダーの中には、ここでの経験を糧に、別の場所で多様性に関する活動を立ち上げた人もいるという。 

今年からは、車いすラグビーにも取り組みを広げたJキャンプ。原田氏は最後に、「プログラムを通して、子どもたちが“自分らしくいていいんだ、自分で選択できるんだ、自分がやれることはたくさんあるんだ”と思えるように、その後押しを続けていきたい」と、力強く締めくくった。 

文: Machi Orime for Play Academy