プレー・アカデミー with 大坂なおみが日本でセーフガーディングの理解促進と普及に励む

Group of young lacrosse players posing for a photo
プレー・アカデミーは、助成対象者に保護に関する研修を実施している。©Hiroki Nishioka/Play Academy

セーフガーディングとは

近年になって、やっと日本でも聞くようになった「セーフガーディング」という概念。2000年代初めに西アフリカ地域で、国連職員から地域リーダーに至るあらゆる層の関係者により、子どもに対する性的搾取・虐待が広く横行が発覚。当時の国連事務総長のコフィ・アナン氏がこの問題を受け、「性的搾取と性的虐待からの保護を図る特別措置に関する国連事務総長公示(Special measures for protection from sexual exploitation and sexual abuse)」を発表した事がセーフガーディングの歴史的背景にある。その後は、機能性に対しての批判があり、2019年に32の非政府組織(NGO)と英国政府が共同でセーフガーディングの基準を見直すコミットメントを発表。一方日本では、少し遅れをとって2018年に「子どものセーフガーディング勉強会」と称したインフォーマルな学びのネットワークをNPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)加盟団体の有志によって立ち上げられ、初めて日本のNGO全体としての取り組みだすが、残念ながらまだまだ認識度が低いのが現状。その中、プレー・アカデミー with 大坂なおみは日本でこの概念を浸透すべく地域スポーツプログラムに対する助成金での資金面のサポートだけではなく、セーフガーディングの理解促進と普及に力を入れている。

まず初めに「セーフガーディング」とは、組織の役職員・関係者によって、また事業活動において、子どもにいかなる危害をおよばさないよう、つまり虐待・搾取や危険のリスクにさらすことのないように務めること。また万一、活動を通じて子どもの安全にかかわる懸念が生じたときは、しかるべき責任機関に報告を行い、それを組織の責任として取り組むこと。(外務省国際協力局の『子どもと若者のセーフガーディング最低基準のためのガイド』より[1])つまり、安全な環境を提供し、未成年者の権利を保護することを目的としている。また、疑念が生じた場合の対応と再発防止も含む包括的なものでもある。

そしてスポーツや体育の環境は、指導者と選手、運営側と参加者との間で力の差が生まれやすい上に、閉鎖的であるから暴力、虐待、ハラスメントが起こりやすい。神戸松蔭女子学院大学の長谷川誠准教授は、体罰の研究に関する論文でスポーツ活動、特に「部活動という閉鎖的な空間のなかでは、 指導者(教員) 、選手(生徒)という絶対的な服従関係を作り出しやすい」環境などが体罰を生みやすい環境だと述べている。これらの要因もあり、未だにスポーツや体育の現場では、国内外を問わず暴力や虐待、ハラスメントが絶えないのが現状。

プレー・アカデミー with 大坂なおみの日本での取り組み

プレー・アカデミー with 大坂なおみ(以下「プレー・アカデミー」)は、この様な状況にいち早く対策を打つべく、セーフガーディングに力を入れている。まずプレー・アカデミーと連携する団体や協力者に対し、ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団のセーフガーディングポリシーに同意することを条件としている。

この一連プロセスで専門家として協力しているのが、2020年に発足し、セーフガーディングの推進を事業として掲げ、研修やアドバイザリー業務を行っている『NPO法人きづく』。プレー・アカデミー助成への採択が決まった団体へ、NPO法人きづくのサポートを受けながら歩みだす。はじめに導入研修としてセーフガーディングのいろはを理解し、団体ごとにセーフガーディングポリシー制定する。その後各団体のポリシーを現場で活用するための研修を2回行い、ポリシーを現場の状況を反映させて磨き続けていく。NPO法人きづく代表の森 郁子氏は、「現場とポリシーが連動して、行ったり来たりしながらポリシーがよりいいものになっていくようにプロセスを踏んで、生きたドキュメントにする」とし、ポリシーを一回定めたら終わりではなく、その先々や状況で考え、対応し、ポリシーにも反映させ常に更新していくものだと、研修で強調。実際に同研修では、各団体が直面した問題を持ち寄り、一緒になって対応を考え、セーフガーディングポリシーを見直し、更新するという作業を共有し、団体同士でも学びを深めている。

助成受給団体の中には本研修後、早速行動に移し企画運営会議で定期的にセーフガーディングを議題の一つに設定している団体や、プログラムを直接担当するスタッフにはセーフガーディングが浸透し、問題に面した時にセーフガーディングからの視点をも考えるようになったと団体からの報告があった。また、同様の研修を受けた関係団体は「セーフガーディングづくりに苦労しながらも徐々に取り組みが身を結んでいることが可視化されていて興味深かったし、自分たちの活動に活かしていこうと思いました」とした。知れば知るほど分からなくなっていくように思える奥が深いセーフガーディング、理解を深めて前進しては後退をしているという感覚になりがちだが、他の団体と様々な事例を共有し一緒に問題に着目していくプロセスを踏みながら点と点を結び付け、手ごたえを感じているのが見受けられる。また、セーフガーディングポリシーを一緒に作成した団体の一つが、2年経ってポリシーの改訂を試みていると話し、「改訂の作業が、団体内の議論が深まり、現場での知見が蓄積した証だと認識しています」と同法人中谷美南子氏は、セーフガーディングが前進している手ごたえを感じている様子。

その一方で、出遅れている日本だからこそ突き当たる壁や問題も山積みである。「全団体に共通する課題としては、セーフガーディングの組織的取り組みを、常日頃の活動に組み込んで継続していくためのキャパシティが確保しづらいことです。例えば、ただでさえ人的リソースが限られている中、セーフガーディング担当者を誰がどう配置するか、等は多くの団体さんが共通で抱えている課題であることが見えています。 」と、中谷氏は話す。中心スタッフのみならず、関係者全員にポリシーや行動規範を浸透させるのはハードルは高く、どうしても内輪だけ知ってる状態になりやすい状況も社会全体に浸透しない理由の一つでもある。


子どもたちのために安心安全な環境で楽しくスポーツを提供出来るよう励む中で、とても重要なセーフガーディング。NPO法人きづくの中谷氏は、「セーフガーディングの取り組みは一朝一夕で完了できる取り組みではなく、時間をかけて試行錯誤をしながら各団体さんに適した予防策を模索する『セーフガーディングのジャーニー(旅路)』として、とらえるよう提案。」今後もプレー・アカデミーの助成受給団体や関係団体がこの旅路を共にし、少しずつ知識と経験を積み、それがいずれ内輪から外輪に広まり日本でもセーフガーディングが当たり前のように考慮される世の中になることを大いに期待。


[1]  子どもと若者のセーフガーディング最低基準のためのガイド(外務省国際協力局:2020年)p6

文: Play Academy